IT業界では正社員を雇って派遣させる特定労働者派遣という正社員を派遣する形態がありました。
しかし実際には多くの場合「請負」「準委任」契約のどちらかである場合がほとんどです。これは派遣契約では法的な問題が多くなるためです。
労働実態は「派遣」だけれども契約は「請負」や「準委任」であるという状態を「偽装請負」と呼びます。
そもそも派遣と請負というのは別物なので、派遣事業を行う資格があろうがなかろうが、派遣に偽装した請負契約をすれば、それは偽装請負になります
こういった間違った認識をさせることが、特定労働者派遣の目的だったのかと思ってしまいますね…
今回は「派遣」「請負」「準委任(SES)」の違いを明らかにし、偽装請負となるかどうかの線引きを具体的に説明することで、労働者が偽装請負の被害に遭っているかどうかの判断基準としての参考になればと思っています。
この記事を作った背景には、特定労働者派遣という派遣の形が平成30年9月29日で完全に日本から消え去る。という動きがあります。
参考:特定派遣がもうすぐ廃止されるが問題はそこじゃない!
このためIT業界では派遣事業を行う資格がないのに派遣事業を行ったという、無許可派遣に該当する企業がたくさん出てくると思います
無許可で労働者派遣事業を行った事業主の公表
またIT派遣という言葉をあえて使っていきますが、私が指しているのは客先常駐のことです。
IT派遣の三本柱の契約形態
IT派遣の闇を語るうえで必要なのが「派遣」「請負」「準委任」に関する説明だと思います。
まずはこの3点セットを解説していきます。なにが派遣でなにが請負なのかハッキリさせておくことで、あなたが現在置かれている“実際の契約形態”を明らかにすることができます。
この3つの契約形態は似ている部分が多いため違法な契約に騙されていることが多いです(IT派遣業界ではエンジニアは基本騙されています)
派遣という契約とは何か
派遣とは労働者と派遣会社の間に雇用関係があり
派遣先と派遣会社の間に労働者派遣契約があり
労働者は派遣先から、直接指揮命令を受けることが許されています。
派遣先から業務命令を受けて派遣先の業務を行うという契約です。
派遣契約は上図のようにシンプルな構造でなければなりません。
派遣先と派遣会社のほかに別の企業が入っていたりすることは多重派遣で禁止されています。
請負契約とは
請負契約は仕事の成果物を完成させることが目的です。完成さえさせれば何の問題もないので、注文主からの指揮命令などは禁止されていますは、仕事は必ず完成させる責任があります。完成した仕事にはミスがないようにする義務(瑕疵担保責任)もあります。
ここで派遣契約と同じように、労働者が派遣先(注文主)から指揮命令を受けたりすると偽装請負になります。
指揮命令関係が成り立つのは労働者と請負業者の間のみです。
仕事の結果が全てなので業務のやり方などについての責任はありません
多重下請構造
IT派遣では単純な契約になっていないことが多いです。具体的には請負業者が更に別の請負業者に仕事を流している構造になっていることがほとんどです
この構造は注文主と労働者の間に請負業者が混在していることによって、労働者に正当な賃金が支払われないという問題点があります。
このケースで偽装請負が確認されると上述した多重派遣にも該当する恐れがあります。
準委任(SES)契約とは
IT業界でよく使われている契約です。これがもっとも一般的な契約形態です。
これはある特定の行為を行うことを目的とした契約で、IT派遣ではテストなどがそれに該当します。
結果がどうであれ責任をもって依頼された行為を行う(善管注意義務)というのがポイントです。
構造と仕組みに関しては請負契約の場合と全く同じです
偽装請負の基準となるもの
実は偽装請負かどうか判断する基準は存在しています。具体的に何かというと37号告示と呼ばれるもので『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(昭和 61年労働省告示第 37 号)(最終改正 平成 24 年厚生労働省告示第 518 号)です。
これはオンライン上からもどういうものか閲覧できます
参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準
簡単に言えば「請負契約」で働いているのにこの基準に反している場合は「偽装請負」になります。
偽装請負になる基準
詳しい基準は上記の参考資料を見て頂ければと思います。ここでは簡単に見える部分だけをまとめていきます。詳しいことは上記の参考資料を見てください。
偽装請負となる基準は以下のようなことがあります。
- 発注者(プロパー社員)が直接指揮命令をしている
- 発注者が労働者の評価や技術指導(注意点有)を行っている
- 発注者が始業及び終業などの時刻時間的な労務管理を行っている
- 発注者が残業や休日出勤の命令を出している
- 発注者が服装などの指定をしている(ただし例外あり)
基本的に偽装請負かどうか判断するポイントは指揮命令にあると思います。誰から指示を受けて業務を行っているのか?という点が最大のポイントになります。
技術指導に関しては基本的には禁止されていますが例外があるようです。
参考→労働者派遣・請負を適正に 行うためのガイド(Q10. 請負業務において発注者が行う技術指導)
雇用する社員を請負契約で従事させていても、基準を全て守っていない場合は労働者派遣事業を行う事業主となります。とのことです。
準委任契約(SES)契約の場合はどうなるのか
ここで生まれてくる疑問が、請負契約の場合は偽装請負になることがわかったが、準委任契約(SES契約)の場合はどうなるのかということです。
結論から言えば、準委任契約だろうが37号告示に反していれば偽装請負になる可能性が高いです。
偽装請負という言葉のせいで混乱するが、準委任契約だろうが37号告示に反すれば偽装請負になります
参考:労働者派遣・請負を適正に 行うためのガイド(Q1)
IT業界では準委任契約のことをSES(システムエンジニアリングサービス)契約という言葉を使っていることが多いが、両者は全く同じ契約のことなので注意してください。
業務委託契約とは
業務委託契約とは実際には存在しない架空のワードです。法律上業務委託契約を定義するものはありません。
そのため業務委託契約とは「請負」「準委任」のどちらかであると判断されます。
契約上、業務委託契約という言葉を使っていて大事なのは「請負」なのか「準委任」なのかといった契約の中身です。
常駐エンジニアは業務委託という言葉を意識する必要はないです。自分が請負なのか準委任なのか派遣なのかさえ知っていれば問題ないです。
IT派遣でよくある準委任(SES)契約は、派遣契約に似ているため労働者本人も混乱してしまう場合があります。
しかし、派遣も請負も準委任も全く別の契約でありますので、契約内容と違う業務遂行の仕方になっていたら、それは偽装請負の可能性が非常に高いです。
事業主も本来であればこの変の契約に関してはもっと慎重になるべきなのですが、とりあえずSES契約でやっとけばいい。というようになっているようですね。
今後、特定労働者派遣が廃止され、IT派遣で働くエンジニアがどのように動いていくかによって、この闇に染まりきった業界に何らかの変化があるのではないか?と私は思っています。